セッション「自然2」における発表では、崇高(Sublime)の概念を軸に、人新世における美学・哲学的視点から論じられた。武田は写真家、畠山直哉の作品を対象とし、そのテーマである崇高について分析した。畠山の作品では自然と人間、自然と技術の関係を同等のものと扱う点に、ロマン主義的な崇高の概念とは異なる要素が見出されることを指摘した。そしてニコラ・ブリオーの人新世的崇高(Anthropocenic Sublime)を参照に、人間と自然の現代的な関係性を捉え直し、人新世における崇高の新たなあり方を提示した。Patellaは一八世紀以降、重要視されてきた自然に対する美的感受性、つまり崇高の概念に焦点をあてた。従来の崇高論では自然を他者性として畏怖する視点(感傷的崇高)と、主体の鏡として内面化する視点(形而上的崇高)が見出される。そして環境危機を背景とした現代においては、不気味さ(Uncanny)が新たな生態学的感情として表出していることを指摘し、三つの崇高の形態を提示した。Heritierは、法と美学の視点から、人間の本質に関する三つの概念(1.homo homini lupus, 2.homo homini deus, 3.homo homini homo)から、プラトンのコーラや京都学派の議論を手がかりに、人間中心主義における自由と責任の新たな基盤、そして多元的社会の基盤について論じた。
【シンポジウム 参加者リスト(発表順)】 – Atsushi OKADA, Professor, Kyoto Seika University – Roberto TERROSI, Researcher, University of Rome Tor Vergata – Federico LUISETTI, Associate professor, University of St. Gallen – Giuseppe PATELLA, Professor, University of Rome Tor Vergata – Paolo HERITIER, Professor, University of Eastern Piedmont – Nozomu NINOMIYA, JSPS Postdoctoral Fellow / The University of Tokyo – Asako FUKUDA, Assistant Professor, Professional Institute of International Fashion – Natsuki SAITO, Researcher, Nagoya University – Yu IZUMI, Associate professor, Nanzan University / RIKEN AIP – Shinnosuke IKEDA, Associate professor, Kanazawa University – Yasuko NAKAMURA, Professor, Nagoya University – Wanwan ZHENG, Assistant Professor, Nagoya University – Tetsuya YAMAMOTO, Associate professor, Tokushima University – Hideki OHIRA, Professor, Nagoya University – Mario VERDICCHIO, Associate professor, University of Bergamo – Yoko IINUMA, PhD student, Kyoto University – Ayako IKENO, Associate professor, Aoyama Gakuin University
「ジェンダー」は社会構築主義的な立場から、生物学的な世界観を否定する文脈で用いられがちである。しかしながら、「ジェンダー」という語を言語学の用語を超えて性のありさまを表現するために使い始めたのは性科学者John Moneyであった。Moneyは染色体がXかYかでは2分できない性発達の多様性を表現するために「ジェンダー」という語を導入した。すなわち、ジェンダーとは発達神経内分泌学の概念であった。Moneyはジェンダー・ロール(性役割)発達におよぼす環境の影響を強く見積もり過ぎていたため、「Moneyの双子」としてしられる重大な人権侵害事件のみならず、性分化の特異性(Differences in Sex Development)を持つ子どもたちの治療指針を策定し、残した負の影響も大きかった。