2023.7.1 第2回理論班会議

2023年7月1日、名古屋大学文学部講義棟128室にて第2回理論班会議が開催されました。

 鄭弯弯先生は、「シャドウデータを用いたラベルノイズ検出方法」と題し、現代の情報処理機器の普及により、多様な分野で大量のデータが収集が可能になったという背景を踏まえて、従来の統計方法では扱いにくいノイズの多い観測データ・POSデータを扱うために、現在開発なさっているノイズ検知の最新の手法について紹介されました。また、自然言語処理における分散表現の発展がもたらす、テクスト研究のあらたな可能性を示されました。

 金信行先生のご発表では、「初期アクターネットワーク理論とテクスト分析」と題し、研究者カロン、ジョン・ロー、アリー・リップらの編集による著書、『科学技術のダイナミクスをマッピングする』(Mapping the Dynamics of Science and Technology)の思想史的文脈を解説していただきました。またそれを踏まえ科学技術研究における、ANTに基づく質的テクスト分析の着眼点、及び量的テクスト分析による展開について説明していただきました。

 鈴木麗璽先生は「シャーレの中のLenia:資源消費に基づく成長を伴うLeniaにおける、生物と環境の相互作用(Lenia in a petri dish: Interactions between organisms and their environment in a Lenia with growth based on resource consumption)」と題し、シミュレーションを用いた環境と生物の相互作用ダイナミクスの探求について発表されました。Lenia生物のカーネル(周辺密度積算関数)と成長関数に、資源チャネルと資源消費・回復ダイナミクスを導入することで環境条件を付加した、ボトムアップなルールに基づくLenia生物と資源環境の相互作用モデルをシミュレーションで実演していただきました。

 田村哲樹先生は「「熟議的な結婚」について」と題し、「民主主義的な結婚」の一類型としての「熟議的な結婚」について、その具体像を示されるとともに、従来の「結婚」の境界に対し、熟議に基づく結婚の境界についてあらたな可能性を示されました。「結婚」についてのフェミニズム/ジェンダー論の見解を踏まえつつ、そこで見落とされている「熟議」という要素について活発な議論が行われました。

 大平健太先生は、「遅れと共鳴2」と題し、特定のリズム(周期・周波数)が最大になって現れるような共鳴の現象について、自己フィードバックの遅れを加えた微分方程式を用いて発表されました。前回のご発表で提案された方程式に、指数のファクターを加えたより複雑な式により、一般には難しいとされてきた遅延微分方程式の解の挙動をある程度とらえることができる事例が示されました。

 大平徹先生は「確率的独立と相関:古典と量子」と題し、古典確率と量子力学の差異(例:ものごとの関係性を示す基準)と類似(例:個別の事例を離れて全体を見渡すことの必要性)を示しつつ、古典系、特に確率において起きる「意外な」ことが、量子系で「常識的」となる例を提示し、古典系と量子系の境界の探求とその展開についてご説明されました。

 平田周先生は、「社会学の科学認識論と社会主義」と題し、社会学の誕生による哲学的な問いかけの変容を検討するカルサンティ(1966-)の研究を紹介されました。前半ではサン=シモン(1760-1825)からラトゥール(1947-2022)に至る、近代のフランスにおける社会学の認識論の展開を概観し、後半では社会主義の再定義(自由主義の過度な生産主義・競争に対する排外的なナショナリズム、さらには両者に対する反動としての社会主義)についてご説明いただきました。

 中村靖子先生のご発表では、「スピノザ論争 Spinoza-Streit(汎神論論争)」と題し、加藤泰史編『スピノザと近代ドイツ——思想史の虚軸』(岩波書店  2022 年)をもとに、無神論者として危険視されいていたスピノザの哲学が、近代ドイツの思想史にもたらした多大なる影響を追いつつ、スピノザの汎神論に対する反発と接近の歴史をご紹介いただきました。

 各ご発表の後の質疑応答では活発な議論が行われ、それぞれの研究テーマの連関と、研究の分野横断的な発展の可能性について話し合われました。(文責:大阪大学 人文学研究科 博士前期課程1年  葉柳朝佳音 )

2023.5.31 第3班テキストマイニング研修会

 2023年5月31日に京都大学文学研究科南谷研究室にて、名古屋大学の鄭弯弯先生を講師として迎え、「テキストマイニング研修会」を実施しました。

 主催である南谷先生(京都大学)をはじめとして、和泉悠先生(南山大学)、鳥山定嗣先生(京都大学)、南谷研究室のオフィスアシスタント(OA)加藤柚月さん(京都大学 文学研究科 修士課程 英語学英米文学専修)の5名が参加し、テキストマイニングソフトMTMineRの使い方に関する研修会を受けました。はじめに参加者同士でそれぞれの研究課題を交換し、その後操作上不明な点を鄭先生に質問しながら、各々の分析内容に沿ってMTMineRを操作しました。

 今回は、南谷先生のテキストマイニング研究を補佐するリサーチアシスタント(RA)として私は本研修会に参加しました。20世紀英国の作家ヴァージニア・ウルフを研究対象とするため、ウルフの中長篇作品11篇をコーパスとして、MTMineRの初歩的な操作を学びました。準備段階としてのテキスト整形の方法から、特徴的な語彙を視覚的に表示するワードクラウド、使用される語彙の豊富さ、多次元のデータを低次元に圧縮した主成分分析などMTMineRの多様な機能を習得することができました。

例えば図1と図2はウルフ作品における各動詞の出現頻度上位の相関係数行列を用いた主成分分析の散布図です。A Room of One’s Own (1929, ARoOO) と Three Guineas (1938)のエッセイ2篇が左辺に、その他のフィクションは右辺に寄っているのが目につきます。小説作品が集まる右辺には動きを表すような動詞(go, move, sit, stand)が多くプロットされているようにも見えます。また、Voyage Out (1915)と Night and Day (1919)の初期長篇小説2篇は、後期のモダニズム的手法が前面に出た作品群から離れて重なり合うようにプロットされています。

 また図3は、名詞の出現頻度上位による作品ごとのヒートマップです。細かくてやや見にくいですが、エッセイ2篇が woman/man の2語の使用で顕著に区別されています。フェミニズムの古典ともされるこれら2篇において、男女のジェンダーに大きな関心が向けられていることが語彙の観点からも示されていると言えるのかもしれません。

 このように本研修会では、鄭先生の丁寧な指導を通じて、MTMineRの基本的な操作について多くを学ぶことができました。今後もRAの業務内でテキストマイニング技術を習熟させていく予定です。(文責:京都大学文学研究科 博士後期課程 英語学英米文学専修 平井尚生)

2023.5.26 第4班ワークショップ 「17世紀〜21世紀のフランス文学におけるジェンダーと性」

2023年5月26日、京都大学大学院文学研究科・文学部フランス語学フランス文学研究室にて、「17世紀〜21世紀のフランス文学におけるジェンダーと性」« Genre(s) et Sexualité(s) dans la littérature de langue française (17e – 21e siècles) » と題するワークショップを催しました。本プロジェクトメンバーのマリ=ノエル・ボーヴィウ(明治学院大学)と鳥山定嗣(京都大学)に加え、フランスからシャルル・ヴァンサン先生(ヴァランシエヌ大学)とラファエル・ブラン先生(リヨン高等師範学校)を、国内からジュスティーヌ・ル・フロック先生(京都大学)をお招きし、各自の研究紹介と意見交換をおこないました。

 ル・フロック先生は「マドレーヌ・ド・スキュデリー『サッフォーの物語』における女性の表象」(La représentation des femmes dans L’Histoire de Sapho de Madeleine de Scudéry)と題して、17世紀フランスの女性作家マドレーヌ・ド・スキュデリーの作品におけるサッフォーの描かれ方を通して、女性の教育やふるまいに関するこの作家の見解を紹介されました。

 ブラン先生は「18世紀における性差の問題を探求するためのアプローチ」(Différentes pistes pour une exploration de la question de la différence des genres au 18e siècle)として、フランス革命期にフランス語の「女性らしさ」を批判し、言語の「男性らしさ」を取り戻すべきという言説があったこと、カサノヴァ作品における言語とジェンダーの問題、ユートピア文学(両性具有、性差なき世界)など、さまざまな研究アプローチを示されました。

 ヴァンサン先生は「エリザベット・バダンテールの後、ディドロ、トマ、デピネ夫人を読み直す」(Relire Diderot, Thomas et Madame d’Épinay après Élisabeth Badinter)という観点から、現代フランスの思想家・フェミニストであるバダンテールの著作を批判的に検討し、18世紀の社会的・文化的背景を十分に考慮して、ディドロ、トマ、デピネ夫人をはじめとする18世紀の作家を読む必要を説かれました。

 ボーヴィウは「簡潔さのレトリックと女性差別」(La rhétorique de la concision au service de la discrimination : l’exemple de la discrimination de genre)という問題について、現代フランスにおける「コラージュ・フェミニスト」の運動を紹介し、簡潔さのレトリックがジェンダー差別の問題とどのように結びついているかを示しました。

 鳥山は「フランス詩におけるジェンダーとセクシュアリティ」(Genre et sexualité dans la poésie française)について、脚韻などに見られる言語的ジェンダーが作家のセクシュアリティとどのように関わるか、また16世紀以降の辞書や詩論書の記述が当時のジェンダー観をいかに反映しているか、その一端を紹介しました。

 その後、質疑応答および全体討議をおこない、人文学の研究を他分野(とくに生物学、行動学、進化心理学、精神分析学)に結びつける可能性(たとえば「両性具有」に関する言説と用語法の歴史的検討)や、海外の研究者と協力する可能性について話し合いました。(文責:鳥山・ボーヴィウ)

2023.3.29 『予測と創発―理知と感情の人文学』刊行記念シンポジウム / 名古屋大学人文学研究科附属人文知共創センター設立記念シンポジウム<けさひらく人文知>

シンポジウムを終えて——盛山和夫先生、周藤研究科長と共に

3月29日午前・午後、2本立てでシンポジウムを開催いたしました。

●『予測と創発―理知と感情の人文学』刊行記念シンポジウム

『予測と創発——理知と感情の人文学』(春風社)

 2022年11月30日、『予測と創発——理知と感情の人文学』(春風社)が出版されました。「予測と創発」をテーマに、ドイツ文学、フランス文学、インド哲学、美術史、応用数学、感情史、心理学といった、多岐にわたる分野からの論考が全11章にまとめられています。当シンポジウムではこれらの論考をベースに以下タイトルの講演が行われました。

・大平英樹 先生 「予測により創発される心性」
・伊東剛史 先生 「新種発見の感情史―『鳥学共同体』における名誉と栄誉」
・平⽥周 先生 「尋問、モラル・エコノミー、罰の不公平な配分―ディディエ
・ファッサンによる国家の抑圧装置に関する研究を⼿がかりに」
・松井裕美 先生 「新しい客観性の模索 かたちの変化の予測可能性と不可能性」
・大平徹 先生 「遅れと予測 過去からの逆襲」

ご興味のある方はぜひ書籍を手に取ってお読みください!

●名古屋大学人文学研究科附属人文知共創センター設立記念シンポジウム<けさひらく人文知>

 プロジェクトが発足し半年以上が経ちました。班別会議を重ねる中で少しずつ方向性が見えてきた今、あらためてスタートを切るためのシンポジウムを開催しました。

エールを送る杉山直名古屋大学総長

 冒頭では、杉山直名古屋大学総長、佐久間淳一名古屋大学副総長にご挨拶いただきました。杉山総長は、「幸せには科学技術だけではたどりつけません。現代社会が非常に複雑になっている中、人の営みを明らかにしていく人文知も必要です」と話し、「人間の価値や尊厳といったものも含めて、人文知で解き明かしていってもらいたい」とエールを送りました。

盛山和夫先生

 その後、日本学術振興会「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」事業委員会・委員長の盛山和夫先生に、「人文学・社会科学の学術知共創がめざすもの――意味世界の探究とは何か――」というタイトルでご講演いただきました。人文学・社会科学を取り巻く現状を、これまでの経緯も交えながら詳しくご解説いただいたうえで、「狭い専門領域を超えた多様な分野の研究に関心を持つ人たち」が集まり、「現実世界が抱えている共同のテーマに皆で一斉に取り組む」ことの大切さについてお話いただきました。

 また、会場は多くの来場者で満席となり、講演や報告発表だけでなく、その後の質疑応答の時間も大いに盛り上がりました。 (文責:綾塚達郎)

2023.3.28 2022年度全体研究集会

「お互いすり合わせるというより、セッションです」

中村靖子 プロジェクト代表

 プロジェクト代表・中村先生は研究会について、このように話します。プロジェクト全体や各班の方向性を最初からガチガチに固めるようなことはありません。メンバーそれぞれが面白いと思うことを模索し、お互いに聞きあう。そうして生まれる臨場感や緊迫感が、今までになかった研究テーマを生み出しつつあります。

 たとえば、第5班「生政治とアート」メンバーの池野先生は、第2班「自然と人間の相互関係史」メンバーの伊東先生が企画したシンポジウムを通して自身のテーマが見えてきたと言います。「どのように問題の設定を行うか悩んでいましたが、シンポジウム『どこまでが動物なのか―人文学から考える』に発表者として参加する中でクリアになりました」

研究集会のようす。各班メンバーが一堂に会した

 そのテーマとは、「人間と人間以外の生物による『表現』を考える」、というもの。一例としてクジャクを想像してみましょう。雄のクジャクが独特な模様の羽を大きく広げる“表現”は、雌に対する求愛行動のためです。雌のクジャクにとってより魅力的にうつる姿として選ばれ続けた結果、今のような姿に進化したとされています。

性淘汰によって今の姿に進化したクジャク。美しい姿をしているが、人に対して魅力的になることを目的に進化したわけではない

 そして同時に、私たち人間にとっても美しいと思わされる姿です。このように種を超えて魅力を感じるのはいったいなぜなのでしょうか。このことは、人間と人間以外の生物間において、感性的コミュニケーションが成立することを意味するのでしょうか。こうした問いを、池野先生は研究の方向性の一つとして掲げています。

 「まとまるのだろうか、という不安は全くありません。お一人おひとりの研究がしっかりしているので、ぜひ好きなようにやってほしいです」

 それぞれが個性を発揮するプロジェクトチームを見守る中村先生は、安心したように話します。

「プロジェクトは始まったばかり。今は探索の時期として選択肢を広げるようにやってほしいですね」

(文責:綾塚達郎)

2023.3.21,22 ワークショップ「21世紀における映画と社会」

 長崎大学の中部講堂等にて「21世紀における映画と社会」を開催した。映画クルー・空族の監督である富田克也氏、脚本を担当している相澤虎之助氏、それに加え、OneMekongクルーらを迎え、二日間にわたって映画「サウダーヂ」や「国道20号線」の上映のみならず、映画と物語、音楽との関わりなど縦横に講演もしていただいた。

 上映した上映した二作品に顕著なのは、山梨という地方を舞台に、大都市とは異なる人間性の構築やそれをめぐる環境のあり方である。消費者金融の店舗や大型量販店が立ち並ぶ国道と、中心街のシャッター、そして労働と移民、そしてその表象としての音楽など、ともすれば大都市を中心に構成されがちな言説やメディアのあり方とは異なり、実際に地方に生きることで忘れ去られているリアリティがありありと語られた。今回は上映することは叶わなかったが、空族の映画である「バンコクナイツ」では、タイのバンコクと、東北地方であるイサーン、そしてそこに入り込む日本人らといった別角度の表象であるが、この作品からさらに現在空族クルーらが取り組んでいる、ラオスなどのヒップホップや、台湾(それも南の地方)の映像作品についても話が及んだ。

 原稿締め切りが毎週あるので、もっと書きたいけど、体力がなくなっているので、端的に何が言いたいかといえば、ものすごい疲れたけど、むっちゃ楽しかった、ということです。来なかった人たちは残念でした。えへん、いいだろう、人文知共創センターのイベント。(文責:森元斎)

長崎で映画を観る!

 2022年11月19日、AAAプロジェクトのミーティングで、森さんはうなだれていた。映画を上映したいのに、できない、という。このプロジェクトにもそれだけの予算はないと思いつつ、どんな映画なのかと尋ねたところ、サウダージオという言葉が返ってきた。山梨という、東京から中途半端に離れた場所で育った子供が、親の故郷を知らず「ブラジルってどこにあるの?」と聞いて、親は言葉に詰まる。あるいは、日本に絶望して、恋人のタイ人女性にタイで一緒に暮らそうと誘う日本の若者が「おれはお金を憎んでいる」と言ったとき、女性の方では「あなたはタイを知らない」「私はお金が欲しい」と突き返す。また別の場面では、かつて開発されて今はもう廃れた団地の名「さんのうだんち」を、相手は「さうだーじ?」と聞き返す。そんな片鱗を紹介しながら森さんは、「こうした台詞の合間に映し出される山梨の自然が、限りなく美しい」と語った。

 その映画を上映するには、長崎でなくてはならなかった。なので私は、長崎での映画上映が実現したとしても、自分が観ることはないと思っていた。けれども、私が代表を務める特設科研「オラリティと社会」の研究課題「言説を動かす情動とファシズムの変貌」と共催で実現することになり、私は生涯で二度目に長崎を訪れることになった。名古屋から延々と新幹線を乗り継ぎ、博多で乗り換える頃には「こんなに遠いところには二度と来ない!」と、ほとんど呪詛のように呟いていたし、実際映画上映の日は、「長崎は今日も雨だった」という歌詞の通り、雨だった。にもかかわらず、映画も長崎も、十二分にその甲斐に報いてくれた。映画万歳!長崎と森先生に感謝!!(文責:中村)

2023.3.1 第2班第1回班別会議

 第二班の第一回班別会議では、3月11日に行われるヒトと動物の関係学会のシンポジウムの予行もかねて研究報告が行われました。はじめに、動物と人間、または人間とそれ以外のものの関係について人文学的な面から考えていこうとする趣旨の説明がありました。

 立花先生のご発表では、アリストテレスの人間観について、倫理学の観点からまとめていただきました。どんな立場の人を人間とするのか、幸福とは時代や場所に通じる普遍的なものなのかということについて、分野を超えた議論が交わされました。

 岩﨑先生のご発表では、インドの物語において動物が言葉を話す事例を挙げ、言語を得ることで道徳的主体として行為の責任を負っているというお話をいただき、まだ議論の余地はあれど人間と動物の境界についての新たな考え方となりました。

 高橋先生はご自身の研究について幅広くご紹介いただき、人間がコミュニケーションの相手をどう認識しているかということや、孤独について実証した結果を踏まえ、人間が人生と前向きに、閉塞感なく向き合うことを実現するために、何かすることではなくそこにいること(being)で愛を与えるエージェントの開発についての展望を知ることができました。(文責:鈴木映恵)

2023.2.18 セミナー「人新世」におけるアート

 第5班は、2023年2月18日にセミナー「「人新世」におけるアート」を開催し、京都大学名誉教授の岡田温司先生を講師に迎えて「アントロポセンとアート」と題したご講演を行っていただきました。講演では、16世紀後半から20世紀初頭までという長いタイムスパンが扱われ、小氷期の気候変動と植民地主義、エコロジーとエコノミーの同根性、火山噴火とサブライム/ピクチャレスク、グローバルな気候変動への想像力、産業革命とインダストリアル・サブライム、大気汚染と芸術といった幅広いテーマが論じられました。「人新世とアート」というと、比較的最近の現代アートが俎上に載せられることが多いですが、本講演は、このテーマの歴史的な射程の広がりにあらためて注意を促すものでした。また、提示された論点はいずれも、第5班にとって今後の研究の指針を与えるような示唆に富むものでした。(文責:武田宙也)

2022.12.15「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」シンポジウム

 標記シンポジウムで本プロジェクトの活動報告をすると共に、パネルディスカッションに参加しました。(https://www.jsps.go.jp/j-kadai/symposium/20221215-2.html)

 2022年5月末に採択通知を受け、研究期間は6月1日からでした。我々のプロジェクトが、申請と同時に始まっていたのだったら、なかなか厳しかったかもしれません。しかし、多くのメンバーは長年の共同研究を行ってきた仲間であり、今回新たにご一緒する人たちとも、申請に向けて何度もミーティングを重ねていたので、活動報告のネタに困ることはありませんでした。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 2022-12-15presentation-1024x758.png

 活動報告では、本プロジェクトの趣旨と目的を説明したあと、3つの研究の具体例と一つの研究実践を紹介しました。研究の具体例の1つ目は、フロイトの著作を対象としてテキストマイニングを用いた分析例です。フロイトの最初期から最後の著作に至るまでの思想の流れを説明しました。2つ目は、理論班の鈴木麗璽先生のモデルの紹介です。鈴木先生とは、このプロジェクトの前身である先導的人社研プロジェクト「予測的符号化の原理による心性の創発と共有」(代表:大平英樹)により、2017年以来ご一緒してきました。この間の議論で使ってきた動的な社会のモデルを、今後はいくつかの方面に拡張して課題のトピックに関連させていきます。3つ目は、ロボティクスと言語を主題とする第3班の南谷先生の研究の途中報告です。文学×言語哲学×発達心理学×記号創発ロボティクスの今後が大いに期待されます。

 実践例としては、南谷先生が長年実践されてきた読書会をご紹介しました。人文学では昔から読書会は、当該の分野で重要文献を共に読みつつ議論を交わす場であり、若手育成の場としての役割も果たしてきました。「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」と銘打って、南谷先生が大学内外の人たちを100人以上動員して新たな形態の読書会を展開させます。

 パネルディスカッションでは、本シンポジウムのタイトルでもある「未来社会を見据えた人文学・社会科学分野における学術知共創の課題について」、事業委員長の盛山和夫先生を初めとして人文学以外の方々から、人文・社会科学に寄せる期待について語られました。これらに対し、私からは、研究に携わる当事者として、人文学の人間として、人文学をめぐる社会的・学問的状況について、歴史的文脈を振り返りつつ、人文学の言葉ならでは語ることができる「希望」や「赦し」、細分化し専門化した知を編むという役割などを紹介しました。いずれも、メンバーとの議論の中で出てきたものです。その意味でこのご報告は、本プロジェクトの知の結集でありました。(文責:中村靖子)