プロジェクトメンバーの伊東剛史先生、平田周先生、中村靖子先生の論文が『現代思想2023年12月号 特集=感情史』に掲載されました

関連サイト:青土社 ||現代思想:現代思想2023年12月号 特集=感情史 (seidosha.co.jp)

🌟伊東剛史先生「ひらかれた感情史のために」pp.26-35

 伊藤先生は、歴史学における、そして歴史学に対する感情史の役割について論じられました。歴史学が構築してきた知識生産のプロセスに私的な感情が入り込む余地を与えることは、史料の批判的読解が感情移入によって侵食されるという危険性を持つ一方で、言論空間において抑圧され、表現されなかった感情へと迫る契機となる。本稿では、こうした感情史の二面性を分析し、感情を歴史叙述のなかにどのように位置づけるべきかを考察されました。

🌟平田周先生「ある「世俗的心理学カテゴリー」が辿り着いたひとつの場所」pp.121-135

 平田先生は、心理学の理論及び実践と、社会との相互作用的な展開という観点から、感情を巡る過去と現在を結びつける枠組みを示されました。まず、イギリスにおける近代化の過程の中で、神学的な概念としての「情念(passion)」や「情感(affection)」に対して、科学的概念としての「感情(emotion)」という心理学的カテゴリーが確立した歴史を概観し、次いで現代の資本主義体制のもとで、心理学が提出した知見が生産活動や日常生活の合理化のための感情を管理する手段として用いられるようになった経緯を分析され、感情に関する歴史的分析が社会の仕組みを考える上で果たす役割を考察されました。

🌟中村靖子先生「言葉と感情、言葉とツール」pp.189-200

 中村先生は第一に、ドイツ語におけるReiz(刺激)という語を巡る生理学の歴史を概観し、神経系が持つ刺激の受容(ネガティブ)と蓄積された興奮の放出(ポジティブ)という2つの原理が、生の根底的な原理として、あるいは感情の基盤として解釈されうることを確認されました。次に、文学作品の言語表現から感情を取り出す試みとして、リルケ『マルテの手記』に対してセンチメント分析を行いました。まず各文のネガティブ、ポジティブ、ニュートラルの確率からなるセンチメントスコアを算出し、そのスコアの推移をテクストから読み取れる主人公マルテの感情の変化と対比することで、マルテが世界からの刺激をどのように受け取り、そうして神経系の内部に蓄積された感情をどのように言語として放出したかのかを考察されました。

 (文責:大阪大学大学院人文学研究科 博士前期課程1 年  葉柳朝佳音 )