2024.8.19 第5回研究集会 セクシュアリティセッション 

 セッション4では「セクシュアリティ」をテーマに鳥山定嗣先生がご発表されました。

🌟鳥山定嗣先生

 鳥山先生は、言語におけるジェンダーと作家のセクシュアリティの関係をテーマとし、フランスのソネット(十四行詩)、とりわけポール・ヴェルレーヌの詩を取りあげました。言語のジェンダーには、文法上の性(男性名詞・女性名詞・中性名詞)や脚韻の性(女性韻・男性韻)がありますが、性的マイノリティの詩人たちはこれをどのように活用しているのか、「規範からの逸脱」が論点となりました。まずソネットの歴史を概観した上で、正規のソネット(4433)の構造を逆にした倒置ソネット(3344)が19世紀に現れること、美学的な意図でこれを用いる詩人がいる(Auguste Brizeuxは倒置ソネットをピラミッドに喩える)一方、ヴェルレーヌの倒置ソネットには同性愛の主題が読みとれることを、先行研究を紹介しつつ解説されました。また、鷹、白鳥、蛇などの動物のイメージに読みとれる性的含意、ラファエロ《悪魔を倒す聖ミカエル》を想起させるキリスト教的なモチーフ、さらに屈折した自意識の表現と思われる脚韻配置の変則性にも言及されました。

 質疑応答では、フランス式ソネットの特徴(イタリア式ソネットとイギリス式ソネットとの比較)が話題となりました。また、エンブレム詩やコンクリート・ポエムとも関連する論点として、Brizeuxの倒置ソネットに見られる「ピラミッド」のような文化的象徴が男性性や権力を表現する手法と結びついているのではないかという質問に対して、Brizeuxの詩は直接的にジェンダーを問題としているわけではないが、伝統的な形式を覆す美的象徴としてピラミッドという非ヨーロッパ的な形象を用いた可能性があると応じました。また、ヴェルレーヌの詩における白鳥のメタファーをめぐって、絵画ではレダと白鳥(ゼウス)のように、白鳥が男性的な性的象徴として描かれることが多いという指摘に対して、文学では白鳥が女体を暗示する場合もあり、バシュラールの指摘するように、両性具有的な象徴とみなされることを確認されました。

(文責:京都大学 博士後期課程 飯沼洋子)