2026.6.14 第8回理論班会議

2026年6月14日(日)に、第8回理論班会議が開催された。出席者は大平徹、大平健太、鈴木麗璽、田村哲樹、金信行、鄭弯弯、中村靖子、大平英樹、葉柳朝佳音の計9名であった。本会議では、理論班の研究進捗報告、班間連携の確認、今後の企画調整が中心議題として扱われた。

 冒頭、中村が4月以降の理論班の活動状況を総括した。特に、各班の研究成果を「共通のアウトプット」としてまとめる必要性を強調した。また、8月25日に予定されている全体集会および2027年5月開催予定の国際シンポジウム(テーマ:「ジェンダーと理論的連携」)の準備状況を共有し、今後のスケジュールを確認した。

各研究報告の詳細

🌟 大平徹・大平健太(応用数学・遅れ理論)

 最初の報告は大平徹・大平健太によるもので、遅れ微分方程式の厳密解とその応用に関する研究成果が発表された。 研究内容としては、遅れ理論方程式の厳密解を導出し、応用数学の新たな展開を提示したほか、折り紙工学やトポロジーの応用研究を紹介。災害時の折り畳み構造物や非ゴムタイヤの開発など、数理解析と工学・デザインの融合的研究の可能性が示された。

 さらに、ChatGPTを用いた数式解析・安定性解析の自動化実験を行い、数学的ルーティン作業の効率化を確認した。AIを教育現場で活用する可能性についても議論が行われた。

🌟鈴木麗璽(人工生命・進化シミュレーション)

 鈴木は、言語を持つエージェントの進化モデルに環境要因を導入した研究を報告した。言葉を特徴とするエージェント間の競合・進化過程をシミュレーションし、環境エージェント(バイオーム)を導入することで、環境の多様性が進化の複雑性を高め、種の多様性を維持することを確認した。

 さらに、LLMの進化的最適化を試み、重みパラメータを遺伝的アルゴリズムで進化させる実験を実施。知識タスクと心の理論タスクの間にトレードオフが存在することを発見した。また、内部表現の可視化(スパースインコーディング)を通じて、AIの概念構造の変化を分析した。

🌟田村哲樹(政治哲学・民主主義理論)

 田村は「脱人間中心的民主主義の可能性」をテーマに発表した。資本主義と民主主義の関係を再検討し、熟議民主主義・参加民主主義の理論的整理を行った上で、非人間的アクター(物・環境)を含む意思決定の正当性を検討した。田村は「意思決定体とは、集合的拘束を伴う正当な決定である」と定義し、拘束性の欠如は政治的決定の不完全性を示すと述べた。

🌟金信行(経済社会学・ANT分析)

金は「NFTマーケットプレイスの形成過程と資産化のANT分析」を発表した。NFT取引プラットフォームの開発・運用過程を事例に、人間と非人間(技術・装置)の連関をANT的視点から分析した。研究では、概念実証からC2C実装、商品拡張に至る段階的開発プロセスを追跡し、AIによるNFT選別(著作権侵害防止)など非人間的アクターの介入を明らかにした。また、「探索的資産化(Exploratory Assetization)」という新概念を提案し、事業者の市場認識と技術装置の相互作用を分析した。

🌟鄭弯弯(言語心理学・AI言語モデル比較)

鄭は二つの研究を報告した。

(1)単語の難易度と心理的要因 

単語の難易度を経験的要因(頻度・形態)と心理的要因(親密度・抽象性)から分析し、ランダムフォレスト・ロジスティック回帰・構造方程式モデリングを併用した結果、両要因が相互に影響することを確認した。心理的要因が媒介する間接効果も見られ、今後は反応時間を用いた実験的検証を計画している。

(2)人間とLLMの語彙表象の比較 

  人間(母語話者・第二言語学習者)とLLM(ChatGPT・Gemini・Claude)の親密度評価を比較した結果、LLMは具体性に強く依存し、身体性を反映できない傾向が見られた。一方、人間は感覚・運動的要素を重視し、第二言語学習者は視覚的複雑性に依存する傾向が確認された。

文責:名古屋大学大学院人文学研究科附属人文知共創センター 鄭弯弯