講演:大澤博隆先生「SFセンターと想像学」
冒頭ではSF(science fiction、あるいは“speculative fiction”)と学術のつながりに注目しつつ、ヒューマンエージェントインタラクション、つまり道具ではなく他者としての人工物との相互作用について、これまでの研究の概要を説明した。例えば、デバイスをキャラクター化することで、デバイスの使い方を直感的にユーザーに説明する研究や、社会的なゲームにおける人工知能についての研究を通して、さまざまな技術ユーザーにどのような想像と行動を引き起こすのかを紹介した。
こうした研究をもとに、「SFとは何か?」という問いを立て、SFが「知見ではなく手法」として、「科学的な推論・技術を用いて提示された設定やそこでの社会・人々を描いた物語群」として、「科学普及手段」として、あるいは「イノベーションの源泉」として、学術にどのような影響をもたらしてきたのかが論じられた。特に、SFを作る過程をアイデア出しに応用する手法である「SFプロトタイピング」によって、社会的圧力を比較的受けにくい形で、社会構造の変化による価値観の転換について議論しやすい場が作られる事例が紹介された。
コメンテーター①:高橋英之先生
ゲームや展示などを通した個人のSF体験と、体験を通して共有される物語の関係について話題提供が行われた。こうした観点から、媒体の選択において、どこまでを受け取り手の想像に委ねるのか? 物語の受け取り手のリテラシーをどのように考えるか? などが議論された。コメントと応答を通して、個人の体験の没入感やインタラクティブ性と、個人間の物語の共有の両立が注目され、物語と現実を地続きに結びつけることの重要性が強調された。
コメンテーター②:鈴木麗璽先生、加藤真紘さん
鈴木麗璽先生は、大規模言語モデル(LLM)を用いたAIエージェントによる言語の進化生態モデルを例に、オープンエンド性と創造性という観点から話題提供をいただきました。LLMを用いて複雑な価値観をモデル化することで、従来の進化モデルに見られた進化の停滞を解消するという試みについて紹介した。
加藤真紘さんからは特に、SFプロットを題材とした文化進化モデルの構築について紹介された。LLMにより、複雑な意味を持つ情報の伝達と変容をモデル化が可能になり、エージェントに内在する要因が既存の壁を破る様子を説明するモデルが作成できるようになったことが示された。SFが既存の壁を破って価値観の転換を設定することで、現在の世界に対する違和感に訴える「マイノリティーの文学」としての役割を持つということが指摘された。
全体討論
討論では、マイノリティを語るSFとの関連において、「将来的に人格が失われるのであれば、進化的に不要なものであったと言えるのではないか?」といった疑問が投げかけられた。LLMとの関連では、「フィクションにおいて、欠損を持つことや、不自然な言葉をはなすことで”ロボット”をキャラクターとして強調する手法は、LLMの登場によって機能を失うのか?」、「AIは創造的なものを書くモチベーションを持ちうるのか?」といった議題が持ち上がった。その他、物語の創造と作家の専門性に関する議論や、生成A Iと作家の権利に関する議論がなされた。
小茄子川歩先生は、あらゆる可能性の中から古代の人間の物語を掘り出す考古学と、現在の世界とは異なる世界の可能性を提示するSFとを結びつけ、セッション2とセッション4に通底するテーマを示した。
(文責: 大阪大学人文学研究科 博士後期課程1年 葉柳朝佳音)