2022.12.15「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」シンポジウム

 標記シンポジウムで本プロジェクトの活動報告をすると共に、パネルディスカッションに参加しました。(https://www.jsps.go.jp/j-kadai/symposium/20221215-2.html)

 2022年5月末に採択通知を受け、研究期間は6月1日からでした。我々のプロジェクトが、申請と同時に始まっていたのだったら、なかなか厳しかったかもしれません。しかし、多くのメンバーは長年の共同研究を行ってきた仲間であり、今回新たにご一緒する人たちとも、申請に向けて何度もミーティングを重ねていたので、活動報告のネタに困ることはありませんでした。

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 活動報告では、本プロジェクトの趣旨と目的を説明したあと、3つの研究の具体例と一つの研究実践を紹介しました。研究の具体例の1つ目は、フロイトの著作を対象としてテキストマイニングを用いた分析例です。フロイトの最初期から最後の著作に至るまでの思想の流れを説明しました。2つ目は、理論班の鈴木麗璽先生のモデルの紹介です。鈴木先生とは、このプロジェクトの前身である先導的人社研プロジェクト「予測的符号化の原理による心性の創発と共有」(代表:大平英樹)により、2017年以来ご一緒してきました。この間の議論で使ってきた動的な社会のモデルを、今後はいくつかの方面に拡張して課題のトピックに関連させていきます。3つ目は、ロボティクスと言語を主題とする第3班の南谷先生の研究の途中報告です。文学×言語哲学×発達心理学×記号創発ロボティクスの今後が大いに期待されます。

 実践例としては、南谷先生が長年実践されてきた読書会をご紹介しました。人文学では昔から読書会は、当該の分野で重要文献を共に読みつつ議論を交わす場であり、若手育成の場としての役割も果たしてきました。「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」と銘打って、南谷先生が大学内外の人たちを100人以上動員して新たな形態の読書会を展開させます。

 パネルディスカッションでは、本シンポジウムのタイトルでもある「未来社会を見据えた人文学・社会科学分野における学術知共創の課題について」、事業委員長の盛山和夫先生を初めとして人文学以外の方々から、人文・社会科学に寄せる期待について語られました。これらに対し、私からは、研究に携わる当事者として、人文学の人間として、人文学をめぐる社会的・学問的状況について、歴史的文脈を振り返りつつ、人文学の言葉ならでは語ることができる「希望」や「赦し」、細分化し専門化した知を編むという役割などを紹介しました。いずれも、メンバーとの議論の中で出てきたものです。その意味でこのご報告は、本プロジェクトの知の結集でありました。(文責:中村靖子)