長崎大学の中部講堂等にて「21世紀における映画と社会」を開催した。映画クルー・空族の監督である富田克也氏、脚本を担当している相澤虎之助氏、それに加え、OneMekongクルーらを迎え、二日間にわたって映画「サウダーヂ」や「国道20号線」の上映のみならず、映画と物語、音楽との関わりなど縦横に講演もしていただいた。
上映した上映した二作品に顕著なのは、山梨という地方を舞台に、大都市とは異なる人間性の構築やそれをめぐる環境のあり方である。消費者金融の店舗や大型量販店が立ち並ぶ国道と、中心街のシャッター、そして労働と移民、そしてその表象としての音楽など、ともすれば大都市を中心に構成されがちな言説やメディアのあり方とは異なり、実際に地方に生きることで忘れ去られているリアリティがありありと語られた。今回は上映することは叶わなかったが、空族の映画である「バンコクナイツ」では、タイのバンコクと、東北地方であるイサーン、そしてそこに入り込む日本人らといった別角度の表象であるが、この作品からさらに現在空族クルーらが取り組んでいる、ラオスなどのヒップホップや、台湾(それも南の地方)の映像作品についても話が及んだ。
原稿締め切りが毎週あるので、もっと書きたいけど、体力がなくなっているので、端的に何が言いたいかといえば、ものすごい疲れたけど、むっちゃ楽しかった、ということです。来なかった人たちは残念でした。えへん、いいだろう、人文知共創センターのイベント。(文責:森元斎)
長崎で映画を観る!
2022年11月19日、AAAプロジェクトのミーティングで、森さんはうなだれていた。映画を上映したいのに、できない、という。このプロジェクトにもそれだけの予算はないと思いつつ、どんな映画なのかと尋ねたところ、サウダージオという言葉が返ってきた。山梨という、東京から中途半端に離れた場所で育った子供が、親の故郷を知らず「ブラジルってどこにあるの?」と聞いて、親は言葉に詰まる。あるいは、日本に絶望して、恋人のタイ人女性にタイで一緒に暮らそうと誘う日本の若者が「おれはお金を憎んでいる」と言ったとき、女性の方では「あなたはタイを知らない」「私はお金が欲しい」と突き返す。また別の場面では、かつて開発されて今はもう廃れた団地の名「さんのうだんち」を、相手は「さうだーじ?」と聞き返す。そんな片鱗を紹介しながら森さんは、「こうした台詞の合間に映し出される山梨の自然が、限りなく美しい」と語った。
その映画を上映するには、長崎でなくてはならなかった。なので私は、長崎での映画上映が実現したとしても、自分が観ることはないと思っていた。けれども、私が代表を務める特設科研「オラリティと社会」の研究課題「言説を動かす情動とファシズムの変貌」と共催で実現することになり、私は生涯で二度目に長崎を訪れることになった。名古屋から延々と新幹線を乗り継ぎ、博多で乗り換える頃には「こんなに遠いところには二度と来ない!」と、ほとんど呪詛のように呟いていたし、実際映画上映の日は、「長崎は今日も雨だった」という歌詞の通り、雨だった。にもかかわらず、映画も長崎も、十二分にその甲斐に報いてくれた。映画万歳!長崎と森先生に感謝!!(文責:中村)