2024年12月7日、名古屋大学文学部本館402室にて第5回理論班会議を開催した。
「フロイトのテキスト分析」(中村報告)は、活動報告、今後の予定と研究進捗報告の3部構成で行われた。研究進捗報告は、コーパスに含まれる文書数の増加とそれに伴うデータ処理の進展、データの拡張による構造的トピックモデルを用いた新たな発見、トピック分析を通じた語彙解釈の試みを共有した。
質疑応答では、前期と後期での変化があった他の思想家との比較についてコメントがあった。比較対象の選定や分析方法の妥当性について議論があり、今後の研究に向けたアプローチ法が検討された。
「脱人間中心的な世界において「政治」はどのように可能か」(田村報告)では、「脱人間中心的な政治」の可能性について、アクターネットワーク理論(ANT)を基盤とした議論が展開された。この報告は、「政治」を人間中心的な枠組みに限定せず、モノやノンヒューマン(非人間的存在)との関係性を組み入れた新たな枠組みの可能性を模索した。
質疑応答では、モノやノンヒューマンが政治においてエージェントとして機能し得るか、これらの要素を含む「政治」における正当性や責任の分担のあり方、モノやノンヒューマンが「政治」に本質的に貢献する可能性など議論された。
鈴木は、まず、社会的粒子群モデルにおけるニッチ構築の概念を説明した。相互作用による環境改変とその蓄積が社会集団の挙動に与える影響を観察するために、文化的ニッチと流動的ニッチという二つの主要な要素が紹介された。続いて、囚人のジレンマと鹿狩りゲームを統合的に分析し、性格特性記述から行動傾向を抽出する試みが紹介された。
質疑応答では、ニッチ構築の概念、主体そのものの構築、エージェントの行動が最適化されるかどうか、ニッチ構築が長期的な協力形成に与える影響と、それが他の環境要因との相互作用など議論された。
大平健太は、今年度の論文発表と学会活動について報告し、最新の研究進捗として遅れ微分方程式における解の求めについて報告した。この研究では、遅れ微分方程式の解法における新たな手法や解析結果が提示され、今後の展望が示された。
続いて、大平徹が、動物の表皮における模様形成のダイナミクスについて説明した。特に、成長、季節性、体温といった要因が模様の表出と消減に与える影響について詳細に解説し、シミュレーションを用いて模様形成のダイナミクスを可視化した。
質疑応答では、大平健太の研究における遅れ微分方程式におけるパラメータの設定やその設定基準、大平徹の提示した生物学的模様形成の、他分野への応用可能性などについて活発な議論が行われた。
「アクターネットワーク理論とブロックチェーン」(金報告)では、ANTとブロックチェーン(BC)の円滑な社会実装に焦点が当てられた。報告では、Koray ÇalışkanによるDARN(アクター、ネットワーク、装置、表象)のアプローチを用いた分析手法が紹介された。具体例(銃犯罪)を提示し、複雑な社会現象を分散的な作用の集まりとして理解する可能性が示された。
質疑応答では、BCの活用例とその社会的意義、人間が介在しないBC、BCの実装においてアクターが果たす役割やその影響力について議論が交わされた。
「感情分析―人間による感情判断のバイアス―」(鄭報告)は、感情分析における「データの主観性」を主な課題として提起した。この問題に対処するため、より信頼性が高いデータを抽出し、それを基に感情分析モデルの構築に取り組んだ。報告では、感情ラベル付けにおける主観性を克服する方法と、感情分析モデルのさらなる改善の可能性が示された。
「アニミズム、ガイア、マルチスピーシーズ」(平田報告)では、アニミズムの概念とその現代的意義について説明された。アニミズムの思想的基盤としてブルーノ・ラトゥールの非近代観が挙げられ、自然と社会のハイブリッド性が強調された。また、都市を「人間だけのものではない場」として再定義し、他の種との共生が都市設計においても考慮されるべきであるという視点が提示された。
質疑応答では、一般的な近代観とそれに基づく自然と社会の分離に関する問題、人間と非人間的行為者の関係性やその相互作用、自然と社会のハイブリッド性など活発な議論が交わされた。
「神経ハビトゥス―ハビトゥスを生成し、維持し、変容する脳と身体のメカニズム―」(大平英樹報告)では、ピエール・ブルデューの「ハビトゥス」の概念が神経科学的視点から再検討された。報告では、脳を「予測する機械」として捉える立場から、内的モデルによる予測と実際の入力との差異(予測誤差)が行動と知覚を制御する仕組みを詳細に解説した。また、感情と身体の連携や処理流暢性などを用いて、感情の創発と意思決定において予測誤差が果たす役割が議論された。
(敬称略)
(文責: 名古屋大学人文学研究科附属人文知共創センター 鄭弯弯)