2024.8.19 第5回研究集会 叢書第2巻セッション 

 名古屋大学・東山キャンパスで行われたAAAプロジェクト第5回研究集会 第1日目(2024/8/19)セッション2は、「生成AIとロボット」と題して、人間とAI、ロボットの関わりについて3つの研究成果が発表された。

🌟池田慎之介先生

 第1発表の池田慎之介先生(金沢大)はまず、第3班において個人の主体化における脆弱性の意義の解明というテーマが共有されていると述べ、プロジェクト内での班の位置付けを行った。そして、ロボットやAIというトピックを軸にして基礎的知見の共有を行なってきたとこれまでの活動を総括した。その後、池田先生は「ヒトとロボットの“主体的”な共生に向けて」と題して、ロボットとの共生における主体性の重要性を主張する発表を行った。ロボットやAIを道徳的行為者として存在させるためには主体性を付与することが必要であるとしたうえで、認知心理学者マイケル・トマセロの主体性の分類に依拠して、ヒトとロボットの共生においては、とりわけ「共有的主体性」が重要になると主張した。共有的主体性の確立には規範・道徳といったものが重要であり、さらに規範や道徳は他者の脆弱性や痛みへの共感に基づく。ゆえに、ロボット・AIにどうすれば共感できるのか、どうすれば主体的な協働者として認識できるのかを明らかにすることが今後の課題であると述べた。

🌟宮澤和貴先生

 第2発表の宮澤和貴先生(大阪大)は「言葉を扱うロボット・人工知能」と題して、ロボット・AIにおける実世界に根ざした言語の獲得をめぐる研究について報告した。世界モデルとして言語を獲得することを実世界に根ざした言語の獲得と定義したうえで、マルチモーダル情報と言語情報を統合することで概念モデルを形成して言語を世界モデルに内包させるための研究について紹介した。まず実体を持つロボットの言語学習において複数の感覚情報の関係を学ばせることで、概念の獲得が可能になる道を示した。次に実体を持たない人工知能においては事前学習によって単語の関係を学ばせることで、より汎用性の高い予測が実現できるとした。最後に、大規模言語モデルから大規模マルチモーダルモデルへの発展可能性とその意義を主張した。

🌟高橋英之先生

 第3発表の高橋英之先生(大阪大)は「現実に侵食するロボット」と題して、人間とロボットがどのような関係を築くべきなのかを論じた。高橋先生は人間には他者に合わせてもらいたいという欲求があることを示す実験を紹介したうえで、他方で他者に何かをしてあげたいという欲求も存在することを指摘し、大道麻由氏(大阪大)の「感謝してくれる家電スイッチ」を紹介した。しかしながら一方向的な関係には無理があるとして、「してあげたい」と「してもらいたい」のバランスが取れた関係をロボットと築くことが重要であると主張した。そのためには「してあげたい」と思えるような存在感をロボットが獲得し人間とロボットが対等な関係になることが必要であり、その方法として人間とは異質な存在としてロボットをデザインするべきだと提言した。方法の具体例として、ロボットの外見と物語(バックストーリー)に注目したアプローチが紹介された。最後に大目標として、虚構と現実の境界面を曖昧にして、社会構造をより動的なものに変容させたいと述べ、そのために中動態的状態を可能にする存在としてロボットを理解することが鍵になると述べた。

 発表後の質疑応答においては、ロボットの主体性に関してトマセロの説が人間中心主義か否か、主体性を獲得したロボットは政治的主体となって政治に参加できるようになるのかといった議論が行われた。また人間の予測通りに行動するロボットの是非についても議論が行われた。

(文責:京都大学大学院文学研究科博士後期課程2年 西村真悟)