2024.7.27 第三回ロボット視察研究会―ロボット・人工物の主体化・身体性をめぐって

2024年7月27日に大阪大学にて、第3班企画のロボット視察研究会「第三回ロボット視察研究会―ロボット・人工物の主体化・身体性をめぐって」が開催された。本研究会では、大阪大学長井研究室にてロボット視察を行った後、2件のライトニングトークを含む合計5件の発表が行われた。

🌟長井研究室ロボット視察

 長井研究室ロボット視察では、はじめに長井研究室助教でAAAプロジェクト第3班メンバーである宮澤が長井研究室の研究トピックや設備等について説明した。その後、3台のロボットのデモンストレーションを視察しつつ、活発な意見交換を行った。視察したデモンストレーションは、Universal Robots社のアームロボットUR5eとUniversal Manipulation Interfaceを用いた模倣学習によるティーカップの操作、株式会社ア-ルティのヒューマノイドロボットBonoboによるジェスチャーを交えた雑談対話、そして、Boston Dynamics社の四足歩行ロボットSpotによる歩行や物体把持であった。

 それぞれのロボットのデモンストレーションごとに、実際にロボットが動作している様子を見たり、ロボットに触れたりすることで最新のロボット研究についてより深く知ることができた。また、ロボットのデモンストレーションを行った長井研究室の学生とロボットを前にしながら意見交換することで、ロボットの身体性や運動制御の難しさ、センサー配置とその理由など、非常に多くのことを議論できたロボット視察となった。

🌟高見滉平さん(長井研究室修士2年)

 対話システムは広く研究されており、雑談対話システムもまた研究が進んでいる。これらの議論の中心は、対話システムをより人間らしくすることや、共感を示すことなどである。しかしながら、本研究では対話相手の発話のセンチメントを報酬とする強化学習モデルを提案し、発話を選択することで、対話相手の感情を考慮し対話相手の発話を直接制御することを提案した。その有効性を検証するため、シミュレーションや被験者実験を行った。本研究会の発表では、実験の予備的な解析結果について示した。さらに、AI Agentの主体化について、AI Alignmentの観点からも議論をした。

🌟福田聡也さん(長井研究室修士1年)

近年、対話システムが盛んに研究されている。対話システムが今後より進展していくには、対話相手の心的状況を考慮して対話したい。そこで、対話相手の発話の肯定度を考慮した発話選択のモデルとLLMへの性格の付与を行った対話誘導モデルを提案した。この提案手法により、ネガティブな対話相手の発話をポジティブに誘導できるかを検証するためにシミュレーション対話実験を行った。その結果、対話相手の発話の肯定度が上昇し、このシステムの有効性が示された。また、人工物の主体化プロセスについて考える際に、人工物が他者から傷つけられる能力を持つことが重要であると考えている。そこで、言語を扱う人工物としてLLMを用いて、LLMが言語的に傷つけられる能力を持つかを検証した。具体的には、LLMに対して罵倒語を与えて、ベンチマークタスクを実行した時のタスクの成功率を評価した。本研究会では、予備的な実験結果の共有を行い、LLMの主体化に関する議論を行った。

🌟池田慎之介先生

 池田は,「言語獲得における身体性の機能:ヒトとロボットの対比を見据えて」という題で,言語獲得において身体性がどのように機能しうるかを論じた。特に,記号接地問題,オノマトペ,痛みをキーワードにし,先行研究を整理した上で,今後の研究課題について述べた。議論では,LLMは過去の人間による言語活動の蓄積に立脚しているため記号接地問題を回避してしまいうること,身体性に基づく(過去の蓄積を参照できないような)新たな言語活動においてはヒトとロボットとで振る舞いに差が生じうることなどが指摘された。今後の方向性として,ヒトとロボットとで主体化のプロセスが異なる可能性があるため,その点について痛みや身体を軸として掘り下げていく必要性が認識された。

🌟肖軼群さん

 肖は、「分断を告げる身体――触覚から読むカズオ・イシグロ『クララとお日さま』」というタイトルで、触覚の視点から『クララとお日さま』の新しい読みを再考する内容で発表を行った。AFであるクララが経験する触覚体験を二つのカテゴリーに分けて、望ましくない触覚体験として「肘を掴む」こと、望ましい触覚体験をとして「抱擁」を例として分析を行った。クララが触覚について学習するプロセスを考察していくうちに、彼女が抱く人間に平等に扱われたい願望、そして人間との一体感を味わいたい欲求が判明する。AIやロボット工学についての知見を吸収しながら、人工知能を搭載したロボットを一人称語り手として設定するイシグロは、ロボット小説における身体性の問題を提起し、触覚に込められている人間とロボットとの間の権力関係のメカニズムを前景化しているという結論を提示した。

🌟宮澤和貴先生

 宮澤は「Agent AIとWorld Models:人工物の主体化を考える」と題し、近年盛んに研究されている自律性を持つAI(Agent AI)と、エージェントが持つ世界の予測モデル(World Models)をもとに、人工物の主体化に関する発表を行った。大規模言語モデルなど、大規模に学習されたモデルが単なる関数や道具としてではなく、自律的な振る舞いを実現できるようになりつつある。AIの自律性が向上し、その振る舞いを人間が想定することが困難になるほど、AIやロボットの主体化プロセスに関する議論の重要性が増すと考えられる。研究会では、人工物の主体化プロセスを記号創発システムの中で捉えることについて議論した。その中で、主体化プロセスは固定的な状態ではなく、常に変化し続けるプロセスとして主体性を捉えることの重要性が議論された。また、エージェントが自ら獲得する主体性だけでなく、他者から与えられる主体性の存在についても議論が行われた。この視点は、主体化プロセスの多面性と複雑性をさらに浮き彫りにするものであった。