2024.6.18 第3班の第6回班別会議

2024年6月18日、オンライン(Zoom)にて第3班の第6回班別会議が開催されました(参加者/敬称略:池田慎之介、和泉悠、大平英樹、肖軼群、ソニア・ザン、鄭弯弯、中村靖子、南谷奉良、平井尚生、宮澤和貴)。本班別会議では各班員の進捗報告に加えて、宮澤の在籍する大阪大学で開催する「第三回ロボット視察研究会―ロボット・人工物の主体化・身体化をめぐって」についての打ち合わせ、また叢書刊行へ向けた10月実施の若手研究発表会の打ち合わせが行われました。

 前述の視察研究会では、イギリスの小説家カズオ・イシグロを専門に研究する肖軼群氏(京都大学)から、カズオ・イシグロ作品をロボットの触覚という観点から分析する研究発表が行われるほか、ロボットの身体性、主体化について班員の池田、宮澤から研究発表が予定されています。また、本研究会は他班のメンバーからも広く参加を募っており、研究班の枠組みを越えた交流が見込まれます。

🌟南谷奉良

 2024年5月17日の第7回終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて―」を開催し、講師に金嶋ゆうひ氏を迎え、村田沙耶香の『コンビニ人間』を扱った。金嶋氏がイベント報告で詳細に説明しているように、(1)KH Coderによるテキストマイニングを用いた計量分析と特徴語の解説、(2)主人公の変化の考察(3)現実世界を通した読解を行った。7月19日には、終わらない読書会の第8回を開催予定(対象テキスト:佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』)が開催予定である。また業績成果として、和泉氏の悪口の研究から着想を得た論文が2024年末に刊行予定の書籍用に査読中である点、また日本医用画像工学会の学会誌『Medical Imaging Technology』に対して、京都大学公開シンポジウム「未だ生成されざる学知に向けて―生成AIの諸問題と可能性」に登壇したメンバーのうち4名(うち2名は南谷と山本哲也)の寄稿が決定し、8月に生成AIの特集が刊行されることが報告された。

🌟和泉悠

 和泉はオンラインにおける有害な言語表現についての研究を進めた。2024年3月に、言語処理学会30回年次大会において、「ホープスピーチ研究のための日本語データセット」を発表した。何らかの意味での希望的な表現に注目することにより、規制に頼ることなく、有害表現を抑制する可能性を探求した。 また、2024年5月、University of Hawaiʻi at Mānoaで開かれた、12th East-West Philosophers’ Conferenceでは、“Abusive Language in the Age of AI: Insights from the Japanese Linguistic and Cultural Context”というタイトルで研究発表を行った。比較言語学的な知見を通じて、今後増加することが見込まれるAIによって生成される有害な言語表現に関する課題を検討した。

🌟池田慎之介

 池田は主に以下の3点について報告を行った。まず,前年度に実施した研究によって得られた知見について,scientific reports誌へと投稿中である。1st roundの審査を経てMajor Revisionの判定を受け,現在その修正稿について2nd roundの審査を受けている状況である。次に,0歳児の乳児から小学生の児童まで幅広い年齢層を対象とした実験調査を実施する環境の構築が完了した。これにより,あらゆる発達段階の子どもを対象として様々なデータを取得することが可能となった。最後に,別途競争的研究資金を獲得し,VRを用いた実験を行うための環境を整えた。これにより,仮想現実・拡張現実空間における様々な行動実験が可能となった。

🌟宮澤和貴

 2024年6月に、2024年度人工知能学会全国大会において、「大規模言語モデルを基盤としたロボットの言語獲得に関する考察」というタイトルで発表を行った。この発表では、記号創発システム、大規模言語モデル、そしてロボットの身体の関係を踏まえて大規模言語モデルを利用したロボットの言語獲得について考察した。

 LLMの性格特性と対話相手の感情価を考慮した雑談対話システムのロボットへの実装を行った。このシステムでは、ロボットは音声とジェスチャーを用いてユーザーと雑談対話を行う。今後は、ジェスチャーのみでなく移動や物体の操作を含めた対話システムへと拡張することで、第3班のテーマである言語獲得と主体化プロセスを検証するロボットシステムとして活用できるようにする予定である。

 LLMの痛みに対する理解と影響を調査するために、痛みを伴う言葉として罵倒語をプロンプトに含めた際のLLMの出力の変化を検証した。今後はより自然な形で罵倒語を提示する方法や、モデル内部の解析を行うことを計画している。