2024.3.30 第4回全体集会 「生成AIと主体化するノンヒューマン――人間のようなものと感情のようなもの」セッション

 AAAプロジェクト第4回研究集会 第1日目(2024/3/30)セッション2は、「生成AIと主体化するノンヒューマン――人間のようなものと感情のようなもの」と題して、人間とAI、ロボットの関わりについて4つの研究成果が発表された。

 研究発表に先立って、司会の南谷奉良氏(京都大)から、本セッションのタイトルとコンセプトについて、イントロダクションが行われた。2024年に公開されて大きな反響を呼んだ「音声会話型おしゃべりAIアプリ Cotomo」を紹介した南谷氏は、「人間のようなもの」が「感情のようなもの」を表出する現象がすでに起きていることを指摘し、ヒューマンとノンヒューマンの境界をめぐる認識が大きく揺らいでいる現状を示した。

 第1発表の鈴木麗璽氏(名古屋大)は「生成AIでエージェントモデルに言語を入れ込む」と題して、シンプルな仮定に基づくルールでモデル化を行うエージェントベースモデル(ABM)による生物や社会集団における相互作用や進化の研究に、LLMのもつ豊かな言語表現力を活用して、実世界の複雑さをモデル内に取り込む成果を報告した。鈴木氏は、第一の研究では、LLMから出力された多様な「性格特性遺伝子」を組み込んだLLMエージェントを作成することで、多様な性格特性が集団内で進化する過程を観察した。第二の研究では、個別の会話トピックをもつエージェントたちに「雑談」を行わせる文化進化モデルを構築した。平均化された無個性な出力を行うと思われがちなLLMであるが、多様な傾向をもつエージェントを創ることでLLMの真価を引き出すことができると、鈴木氏は述べた。また、本研究は見方を変えれば対話AIによる社会構築を予見している、という興味深い可能性が示唆された。

 第2発表では、高橋英之氏(大阪大)の指導のもとで研究を行う大道麻由氏から、「物語を共有するロボット」を題して、「居場所になってくれるロボット」の研究開発の成果報告があった。「居場所」を研究上のキーワードとする大道氏は、「日常的に自分の存在を肯定してくれる」存在がいることが「居場所」と感じられる空間の形成に大きく寄与すると考え、家電操作に連動して承認を与えてくれるスイッチロボットを開発した。さらに、人間のロボットへの関心を持続させるための「バックストーリー」をもつコミュニケーションロボットの開発成果も報告された。バックストーリーの生成にLLMを用いつつ、人間との会話による情報収集の結果を反映させるという手法を導入することで、LLMの創造性を高められると、大道氏は述べた。

 宮澤和貴氏(大阪大)による第3発表では、「言語を扱う人工知能・ロボット」と題して、人間のように言葉を扱うシステムを主体化させるという目標のもと、ロボットの言語獲得の研究成果が報告された。宮澤氏はまず生成AIの発展を概観し、LLMが視覚情報の処理・ロボットの制御などにも応用されており、「大規模言語・視覚・行動モデル」と呼べる現状を確認した。そこで宮澤氏は、「なぜ生成AIは言葉の意味を理解しているように振る舞えるのか」という問いを提起した。「理解」を「過去の経験(概念)を通した予測」と定義した宮澤氏は、機械学習モデルTransformerにおけるAttention機能により情報構造が階層化されることで、人間のマルチモーダルカテゴリゼーションによる概念形成と近い現象が起こっているとの仮説を提示した。また、現在の課題として、対話相手をポジティブに誘導する対話システム開発、およびLLMへの「悪口」が出力へと与える影響についても報告があった。

 第4発表では、日永田智絵氏(奈良先端大)が「感情モデルの開発――感情理解に向けた構成論的アプローチ」と題して、感情分化を再現する感情の計算モデル研究の提案を行った。感情・情動は生物学的過程によって生成されるとする心理学的構成主義の立場をとる日永田氏は、身体の外部からの感覚(外受容感覚)と身体内部からの感覚(内受容感覚)に基づく感情の生成をモデル化し、子どもエージェントモデルに対して養育者から表情のミラーリングを行うことよって、感情分化が見られたことを報告した。ロボットに感情を実装する研究の目的として、日永田氏は、感情を理解することでロボットが人間に「主観的な共感」を行えることが挙げられるとした。

 最後に、コメンテーターの伊東剛史氏(東京外大)から全発表の振り返りが行われた。伊東氏は、「ヒューマン/ノンヒューマン」の対立がヒューマンと見做されない要素を他者化するために機能する差異化・差別化のための表象的カテゴリーである点を指摘し、アニマル・スタディーズにおいてhumanとnon-humanを包括する上位概念としてanimalが提起されたように、ヒト・ロボット・人工知能を包括する概念はありうるか、と問いかけた。また、ノンヒューマンを主体化させるという過程において、ヒューマンがかえって主体化し、ノンヒューマンの主体性を制御しようとするという矛盾を指摘した。また、主客二元論を批判する人文学の場と、主客の分離を当然視する技術的実践の場との対話には大きな意義を見出せるとした。伊東氏の指摘を受けて、南谷氏・中村靖子氏は、「主体化」そのものを問い直すことが本プロジェクトの目的であり、今後の研究課題であると述べた。

 発表後の全体討論では活発な議論が交わされた。議論の締めくくりとして、南谷氏は、自然科学と人文学における基本的認識・用語の食い違いによって齟齬が発生していることを指摘し、両者の継続的な対話の重要性を強調した。

 文責:平井尚生(京都大学文学研究科博士後期課程2年)